下顎が前に出ている「下顎前突(受け口)」は、見た目の問題だけでなく、かみ合わせや発音、咀嚼などの機能にも影響を与えることがあります。矯正治療だけでは十分に改善できない場合、「外科的矯正治療(顎変形症の手術)」が必要になることがあります。
今回は、外科矯正による下顎前突の治療について、流れや注意点をわかりやすくご紹介します。
◆ 下顎前突とは?
下顎前突(受け口)とは、上の歯よりも下の歯が前に出ている状態を指します。主に以下のような問題を引き起こします。

1. 見た目のコンプレックス
- 横顔がしゃくれて見える
- 口元が突出し、口が閉じにくい
- 笑顔に違和感が出る
- 顔のバランスやEラインが崩れ、外見的な悩みにつながりやすくなります。
2. 噛みにくさ・食事のしづらさ
- 上下の前歯がかみ合わず、前歯で食べ物を噛み切れない
- 奥歯に負担が集中し、噛み合わせが偏る
- 長期的には歯の摩耗や破折、顎関節への負担にもつながります。
3. 発音への影響
- 「サ行」「タ行」などの発音がしづらくなることがあります
- 特に舌の動きや歯の位置関係が重要な発音に影響が出やすく、話しづらい・聞き取りにくいと感じられることがあります
4. 顎関節への負担
- 骨格のズレにより、顎関節に過度な力がかかる
- 顎関節症(開けづらい・音が鳴る・痛み)を起こすこともあります
5. 心理的ストレス・社会的影響
- 見た目の悩みから笑顔を避ける・人前で話すのが苦手になるなど、自己肯定感に影響を与えることもあります
骨格のズレが大きい骨格性の場合は「外科矯正(顎の骨を整える手術)」が必要になります。骨格性下顎前突(こっかくせい かがくぜんとつ)は、顎の骨そのものの成長バランスのズレによって起こる不正咬合で、歯の位置だけでなく、上下の顎の大きさや前後的な位置関係に問題があるのが特徴です。
◆ 骨格性下顎前突の主な原因
① 遺伝的要因(家族性)
- 両親や親族に受け口の人がいる場合、骨格の特徴が遺伝しやすい。
- 骨格の特徴(下顎が長い、上顎が小さいなど)が受け継がれることが多く、これは矯正単独では治しにくく、外科矯正が必要になることがあります。
② 上顎と下顎の成長バランスの異常
- 上顎の成長が弱くて小さい、または下顎の成長が強くて大きいなど、上下の顎の成長バランスのズレが骨格的な受け口の原因になります。
③ 思春期の急激な成長
- 特に男子では思春期後半〜20歳前後まで下顎の成長が続くため、この時期に急激な下顎の突出が見られることがあります。
- 小児矯正である程度コントロールできても、成長次第で外科的対応が必要になることもあるため、慎重な経過観察が必要です。
④ 顎変形症(外科矯正の対象となる重度の骨格異常)
- 骨格性下顎前突の中でも、特に顎のズレが顕著な場合は「顎変形症」と診断され、健康保険適用の外科矯正治療が可能となります。
- 顎の左右差(非対称)や顔貌のゆがみを伴うことも多く、専門的な診断と治療計画が必要です。
◆ 骨格性と歯槽性の違い
種類 | 主な原因 | 対応方法 |
骨格性下顎前突 | 上下の顎の骨の成長バランスの異常 | 外科矯正+術前後の矯正治療 |
歯槽性下顎前突 | 歯の傾きや位置の異常 | 矯正治療のみで改善可能なことが多い |
◆ 外科矯正治療の流れ
Step 1|初診・カウンセリング
まずはお悩みや症状についてお伺いし、外科矯正の必要性や可能性を確認します。
「受け口」「顎のズレ」「顔の左右差」など、骨格的な問題がある場合は外科矯正の適応が考えられます。
Step 2|精密検査・診断
以下のような検査を行い、顎のズレやかみ合わせの状態を詳しく調べます。
- レントゲン撮影(セファログラム・パノラマ)
- 歯や顎の3Dスキャン
- 写真撮影(正面・側面)
- 顎の動きの検査 など
これらをもとに、外科矯正が適応となる「顎変形症」に該当するかどうか診断を行います。また治療計画に関して提携病院とも話し合い治療方針を決定します。
Step 3|術前矯正(1〜2年程度)
手術で顎の骨を正しい位置に動かすために、歯を理想的な位置に並べる準備を行います。
- ガタガタを整える(配列)
- 上下の歯を骨格に対して正しい位置に移動させる
- 一時的にかみ合わせが悪くなることもありますが(受け口が強くなるなど)、手術
- で改善されます
Step 4|手術(顎の骨の移動)入院
術前矯正が完了したら、連携する口腔外科または大学病院などで顎の骨を切って移動する外科手術を行います。

- 下顎の手術(下顎枝矢状分割術)や上下顎の手術(両顎手術)など、当初の計画通りか、もしくは変更するか直前の検査により方針を決定します。
- 全身麻酔で行い、入院は約1〜2週間程度
- 術後1ヶ月ほどは腫れや食事制限があります
Step 5|術後矯正(6ヶ月〜1年)
手術後の顎の位置に合わせて歯の微調整を行い、かみ合わせを安定させます。
- 手術によって改善された骨格に対し、歯の最終的な位置合わせを行う
- かみ合わせの微調整が中心

Step 6|保定(リテーナー)
矯正装置を外した後は、歯並びや顎の位置を安定させるためにリテーナー(保定装置)を使用します。
- 毎日の装着が大切です
- 保定期間は通常2〜3年、定期的なチェックも行います
◆ 外科矯正のメリット・デメリット
メリット
- 骨格レベルでの改善ができる
- 横顔のバランスやEラインが整う
- 機能的なかみ合わせを獲得できる
デメリット
- 入院・全身麻酔を伴う外科手術が必要
- 術前・術後矯正で長期間の治療が必要
- 一時的に腫れやしびれが出る場合がある
「顎変形症」と診断された場合、外科手術および術前・術後の矯正治療は健康保険の適用対象になります。対応可能な施設(顎口腔機能診断施設)での診断と治療が必要です。
当院(ユアサ矯正歯科)は顎口腔機能診断施設として認定されておりますので、保険診療での外科矯正にも対応可能です。
【Q&A】骨格性下顎前突
Q1. 骨格性の下顎前突とは何ですか?
A.
骨格性下顎前突とは、下顎が上顎に対して前に出ている骨格のズレによって、かみ合わせや見た目に問題が生じる状態を指します。
「受け口」や「しゃくれ」とも呼ばれ、遺伝的な要素や成長バランスの乱れが原因となることが多いです。
Q2. 骨格性と歯並びの問題(歯槽性)の違いは?
A.
歯槽性は歯の傾きや位置に問題がある状態で、矯正治療のみで改善できることが多いです。
一方、骨格性下顎前突は上下の顎の骨の大きさや位置のズレが原因のため、歯並びだけを整えても根本的な改善は難しく、外科的手術が必要になるケースがあります。
Q3. なぜ骨格性下顎前突になるのですか?
A.
主な原因は以下の通りです:
- 両親からの骨格的な遺伝
- 上顎の成長不足、下顎の成長過剰
- 思春期の急激な下顎の成長
- 顎の非対称な成長
これらが複合的に関与して、見た目やかみ合わせの問題が現れます。
Q4. 治療方法はどうなりますか?
A.
骨格性の場合は、次のような流れで治療します:
- 術前矯正(1~2年):手術に向けて歯の位置を整えます
- 外科手術:顎の骨を正しい位置に移動させます
- 術後矯正:細かいかみ合わせの調整を行います
- 保定期間:歯と顎の位置を安定させます
Q5. 外科手術って怖い?どんな内容?
A.
顎の骨を切って移動させる手術で、全身麻酔で行います。
「下顎枝矢状分割術(SSRO)」や「上下顎同時移動術」などがあり、状態に応じて選ばれます。
腫れやしびれなどの術後症状はありますが、大学病院などの専門施設で安全に行われる治療です。
Q6. 外科矯正は保険が使えますか?
A.
はい。「顎変形症」と診断された場合は、矯正治療+手術ともに健康保険の適用となります。
ユアサ矯正歯科は「顎口腔機能診断施設」として認定されており、保険適用の外科矯正に対応しています。
Q7. 何歳くらいで相談すべきですか?
A.
骨格の成長が大きく関係するため、早めの診断と経過観察がとても重要です。
小児期に成長の傾向を見極めながら、将来的に外科矯正が必要になるかどうかを判断することができます。
Q8. 治療でどれくらい見た目は変わりますか?
A.
骨格ごと改善するため、横顔や口元の印象が大きく変わるケースが多いです。
「しゃくれた口元がスッキリした」「笑ったときの見た目に自信が持てるようになった」など、審美的な満足度が高い治療といえます。
Q9. 治療にはどのくらい時間がかかりますか?
A.
一般的に2年半~3年程度の治療期間が必要です(術前矯正+手術+術後矯正+保定)。
長期的な治療ですが、人生の質を大きく変える治療でもあります。
【まとめ】
下顎前突は、見た目だけでなく機能にもさまざまな影響を及ぼすため、原因を見極めて早期に対応することが大切です。下顎前突は、成長期にある程度のコントロールが可能なこともありますが、骨格的なズレが大きい場合には外科的矯正治療が必要になることもあります。ユアサ矯正歯科では、精密検査により成長の傾向や癖を見極め、必要に応じて小児期からの早期矯正や外科矯正を組み合わせた治療をご提案しています。
下顎前突の外科矯正治療は、矯正歯科医と口腔外科医が連携しながら進める高度な治療です。見た目の悩みだけでなく、かみ合わせや発音などの機能改善を目指した治療が可能です。「下顎が出ているのが気になる」「普通の矯正で治らないと言われた」という方は、まずはカウンセリングでお気軽にご相談ください。
📞011-855-4182
📍相談予約 https://ssl.haisha-yoyaku.jp/x0836927/login/serviceAppoint/index?SITE_CODE=hp
監修者:湯浅 壽大
歯科医師・歯学博士(D.D.S., Ph.D.)
日本矯正歯科学会認定医|北海道矯正歯科学会・日本舌側矯正歯科学会 会員
2002年に北海道医療大学歯学部を卒業後、同大学大学院歯学研究科で専門性を深める。
2013年に開業して以来、矯正治療を中心に、噛み合わせや見た目の調和を重視した歯科治療を提供。
学会や勉強会に積極的に参加し、最新の矯正技術を取り入れて治療にあたっています。
詳しいプロフィールはこちらhttps://yuasa-orthodontics.com/about